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1980年代に日本に対して行ったのと同様に、中国にも圧力をかけているのである。
だが、中国の対応は日本ほどには迅速ではない。 それは、中国の国内金融制度がまだ成熟しておらず、さまざまな弱点を抱えているからでもある。
中国の実質GDPは経済建設路線開始の1978年から常にプラス成長を維持しており、天安門事件の発生した1989年から1992年にかけては急低下したものの、常に17%近辺での成長を遂げてきた。 とくに2004年からは2桁成長が続き、疲弊する米国を支える形で世界経済の拡大の一翼を担っている。
だが国内金融体制はまだ磐石とはいえず、とくに不良債権が積み上がった国内銀行をどう再建するかは、中国にとってきわめて大きな課題であった。 経済拡大路線にもとづき国営企業に過剰な融資が行われた結果、巨額の銀行貸付が不良債権化した問題で、中国は国営銀行別に資産管理会社(AMC)を設立してその処理に当たることになった。

だが、その債権譲渡は簿価で行われたため、不良債権の実態は不明なままとなっている。 この結果、銀行自体の不良債権比率は低下、株式公開によって内外で資本調達を行い健全性は高まってはいるが、不良債権問題はAMCに残されたままとなっている可能性が高い。
その意味では、中国の不良債権問題は未解決であるということもできる。 さらに、中国では銀行融資の比率が圧倒的に高く、証券市場がまだ未成熟な状況にある。
市場メカニズムが働きにくい環境では、金融政策が経済活動に浸透しにくい。 経済の過熱感に対して金利を引き上げても効果が薄い、というのが中国金融の現状でもある。
企業経済に関しても国営企業の存在感がまだ強く、欧米諸国並みの民間経済に移行したとは言い難い。 こうしたなかで欧米の主張通り人民元を変動相場制に移行すれば、国内金融市場が混乱する、というのが中国の主張だが、それも額面どおりに受け取りにくい点もある。
人民元の価値上昇は、国内インフレ抑制や内需拡大への効果も期待できるからだ。 また、ドル買い介入で必要以上に外貨準備を積み上げることへの警戒感を和らげることもできる。
そうした戦略転換を急がないのは、中国が日本の金融戦略を「失敗のケース・スタディ」として見ているからでもあろう。 中国が金融面において欧米諸国から圧力を受けているのは、通貨制度の改革(人民元の変動相場制移行)と国内市場の開放(金融ビジネスへの参入)、さらには市場メカニズムの導入(証券・金融派生商品市場の活性化)、不良債権処理の迅速化(銀行経営の健全化)、機動的な金融政策(中銀の独立性)といった点である。
これらは、まさに戦後日本が経済復興する過程で米国から受けた「外圧」とほぼ同じである。 なかでも為替レートに関しての米国と欧州からの切り上げ要請には厳しいものがある。
米国の対中貿易赤字は2004年に1619億ドルに急膨張した後、翌年には2000億ドルの大台を超え、2007年には2563億ドルと赤字幅の拡大が止まらない。 またEUは今では中国最大の貿易パートナーであるが、2003年には500億ユーロにすぎなかった対中赤字額は2006年に1305億ユ−ロに急拡大し、こちらも人民元の水準を無視できなくなっている。

理論的には必ずしも人民元が割安だとは言い切れない点もあるが、経常収支不均衡の拡大を考えれば、政治的な妥協も必要といえる。 だが中国は、1971年のスミソニアン協定での日本円の大幅切り上げ(対ドル360円から308円へ17%の切り上げ)や1985年のプラザ合意による240円から200円割れまでの17%近い上昇で、日本経済が悲鳴をあげた歴史を学んでいる。
実際には円高は、経常収支不均衡の下での宿命的な方向性ではあったが、その上昇ペースが経済的に正当化されたかといえば、話は別である。 短期間のうちに17%以上の為替調整が起これば、企業経済や国内市場が混乱するのも当然である。
経済システムは、短期的な衝撃には強くない。 日本経済も例外ではなく、急速に進んだ円高は成長阻害要因となった。
中国が、日本の二の舞を演じることがないように、と警戒するのは当然である。 欧米諸国は日本に対する成功体験を、中国は日本における失敗体験を、それぞれ教訓としているかのようだ。
為替レート以外にも、中国が日本をケース・スタディとして見ていると思われる点は少なくない。 不動産バブルや財政赤字の膨張への警戒感などはその例だろう。
もちろん、不良債権の処理方法や派生商品市場の育成、外資による企業買収への対応など範例としたケースもある。 ただ、外貨準備の運用に関しては、日本のコピーから完全に脱出して、独自の方法論を展開し始めたのは、前述したとおりである。
また、中国における銀行の外国資本への開放は、日本より積極的に進められてきた。 これは、中国独自の経営では銀行経営の近代化に限界があると政府が判断したからである。
不良債権が増大したり不祥事が続発したりといった背景もあるが、欧米金融機関の出資や経営参加を奨励したのは、「日本人経営による変われない日本金融」の限界を見たからだ、という気がしないでもない。 中国にとっての金融力戦略は、表面的には外貨準備運用などの色彩が強いが、本質的には、欧米覇権の色が濃い国際金融体制に対してやや距離を置きながら、日本が構築することができなかった独自の資本市場体制をじっくりと育て上げようとするものではないか、とも考えられる。

それは、上海証券市場の育成、人民元相場の改革、銀行システムの改善、個人資産の運用弾力化など、長期的視野に立って英米の金融力が衰えるのを気長に待つかのような、悠久の金融戦略なのかもしれない。 スイスの銀行といえば、秘密口座と相場が決まっている。
Gでお馴染みのD の報酬振込みはスイスにある銀行口座というシナリオであり、映画「ダ・ヴィンチ・コード」でもスイスの銀行の支店と思しきその貸金庫の様子が描かれていた。 小説では、秘匿性の強いお金の話になればスイスの銀行員が登場するのが定番だ。
最近では資産運用ブームで日本でもスイスの個人銀行が有名になったが、そもそも個人銀行には「有名」になってはならないような雰囲気も漂っている。 その前に、そもそもなぜスイスで金融業が盛んになったのか、という疑問も湧く。
マックス・ウェーバーが説くようにプロテスタントの精神が金融業を発展させたのだという説もある。 フランスの神学者カルヴァンが宗教改革を指導したのは、たしかにジュネーブであった。
だが金融業が発展するのは肥世紀あたりからなので、やや時代が違う。 スイスの個人銀行は、どうやらフランスの富裕層が国境に近いジュネーブの金融商にお金を預けるというあたりから幕が開いたようだ。
4世紀末、フランスのルイ13世によるプロテスタント迫害や税制改革が、ユグノーの国外脱出や彼等の資金逃避を呼び、フランスからスイスヘという資金の流れは加速していく。 スイスにとって金融は、精密工業と並ぶ主要産業であり、大手銀行としてはUBSやK スイスなど世界の舞台で活躍する銀行が有名だ。
ただし、スイスの秘密性とそれが金融ビジネスを主要産業に押し上げたという意味では、ピクテなど200年以上の歴史をもつ個人銀行にまず焦点を当てるべきだろう。

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